犬が震える・抱っこでキャンと鳴く|見つかりにくい首の痛みと水鍼治療

4歳の頃から繰り返しどこかを痛がる。痛み止めを飲ませるとましになるけれど、完全には良くならない・・・。朝起きるとき、抱っこしようとしたとき、段差を降りるときに、キャンッと小さく鳴いて痛がってしまう。そんなチワワちゃんがあじな動物病院へ来院しました。以前の動物病院で痛みの原因を探すためにレントゲン検査などを受けたのですが、痛みに直接つながるようなハッキリした異常は見つからなかったようです。
「首を丸めてうずくまり、毎日震えているんです。」
――同じような姿に覚えはありませんか?
レントゲン写真や、血液検査には反映されない痛みがある。果たしてこのワンちゃんは、どこが痛いのでしょうか?そして、この子には、何をしてあげたら良いのでしょうか?
レントゲンで「異常なし」でも、犬の首が痛むことがあります

骨や関節の変化など、硬い部分はレントゲン検査で原因がハッキリとわかることがあります。一方、筋肉や筋肉を包む膜・じん帯・神経の炎症など柔らかい部分は、レントゲンの機械を用いた画像だけでは評価しにくいことがあります。MRI検査であれば椎間板やじん帯の損傷まで発見できることもありますが、全身麻酔が必要となり体への負担が小さくはありません。
物言えぬワンちゃんの異常を見つけるために知ってほしいこと。それは、
**「異常が見つからない」=「痛くない」ではない**
検査で「異常なし」と言われることと「その子が痛くない」ことは、イコールではありません。むしろ臨床の現場では、検査で異常が出ないタイプの痛みのほうが、ずっと多いというのが私の実感です。
なぜ見つからない?首の痛みは骨だけが原因ではありません

犬の首(頚部)は、頭という重いパーツを支えながら、上下左右に大きく動かすための、椎間板・じん帯・関節包・そして首まわりの筋肉たちが、絶妙なバランスで頭を支えています。
輪ゴムも、はじめのうちは弾力があってよく伸びますが、劣化してくるとひび割れて、ちょっと引っ張っただけで切れてしまいますよね。犬の首まわりの組織も同じで、日々の小さな負担が積み重なることで、少しずつ弾力やしなやかさを失っていきます。すると、椎間板が膨らむ・破ける、筋肉を包む膜が炎症を起こす、ムリな動きで負荷がかかった靭帯や神経が炎症を起こす、そして炎症に巻き込まれた筋肉が緊張してしこり(トリガーポイント)ができたりします。これらは、レントゲンには映りませんが、確かに痛みの原因になっている場所です。
こんな様子はありませんか?
– 抱っこしようとすると「キャンッ」と鳴く
– 段差を降りるのを嫌がる
– 頭を下げてごはんを食べにくそうにする
– 震える
こうした小さなサインの裏に、画像には映らない体を支えるパーツの痛みと炎症が隠れていることが、少なくないのです。
特にチワワやフレンチブルドッグなどの犬種では、この負担がかかりやすい体の特徴があります。
チワワ・フレンチブルドッグは、なぜ首を痛めやすい?

チワワやフレンチブルドッグは、その体型ゆえに、首や背骨に負担がかかりやすい犬種です。チワワのような小型犬は、関節が小さく繊細で、ちょっとした衝撃や姿勢の崩れが首への負担につながりやすい傾向があります。フレンチブルドッグのような短頭種・軟骨異栄養犬種は、椎間板がもろくなりやすい体質的な特徴を持つことが知られており、若いうちから頚部・胸腰部の椎間板に負担がかかりやすいとされています。だからこそ、「うちの子はまだ若いから大丈夫」ではなく、「この犬種だからこそ、早めに気づいてあげたい」という視点が大切だと、私は考えています。
犬の痛い場所はどうやって見つける?~触診で探す「見えない痛み」

私はこれまで、痛みが消えないワンちゃん、あるいは歩けなくなった犬たちに鍼治療をしてきました。その中で積み重ねてきたのは、レントゲン画像や血液検査だけでは拾いきれない痛みを、この手で探すという臨床です。
ツボを指先でたどり、犬の体がどう反応するか。どの筋肉が張っているか、どこを触ると毛が逆立ち、皮膚がピクピクと動くのか、逆にどこに軽く触れると気持ちよさそうに力が抜けるか。ワンちゃんの体は、言葉の代わりにこうした小さな反応で痛みの場所を教えてくれます。
例えば今回のチワワちゃん。ツボでいうと首の付け根にある大杼(たいじょ)と呼ばれるツボの近くの筋肉がカチカチに硬くなっていました。毛に触れるだけで首を縮めて震えてしまいます。この反応から、首の付け根から周囲の筋肉にかけて、強い痛みや炎症が隠れているのではないかと私は考えました。これは現在の検査をする機械では数値にできません。けれど、日々の鍼治療を通して犬の体に触れ続けてきた獣医師の指先でしか拾えない情報が確かにあると感じています。いつもと違う、と感じたあなたの直感を、一緒に確かめていく。それが私にとっての東洋医学です。
強い痛み・繰り返す痛みに―「水鍼治療」とは?

痛みの場所が見えてきたら、そこに合わせた治療を組み立てます。
一般的な鍼治療では、
・痛みや強張りを緩和するツボ
・体全体のバランス(伸ばす・引っ張るのバランス)を取るツボ
・体の弱い部分を元気にするツボ
これらのツボを選び、そこに鍼を打って治療していきます。しかし、痛みがとても強い・繰り返し同じ場所を痛めて体が強張っている、そんなワンちゃんに行うのが、水鍼と呼ばれる治療です。
水鍼(aquapuncture)は、ツボに鎮痛薬などをごく少量注入する治療法で、急な痛みにも、繰り返す慢性の痛みにも使える手段です。針だけの刺激よりも効果を実感しやすい子も多く、痛みで辛い思いをしている時間を、少しでも早く縮めてあげたいときに選んでいます。そこで今回のチワワちゃんにも、痛みの強い場所を狙って水鍼を行いました。
毎日震えていたチワワちゃん、その後
冒頭のチワワちゃんは、最初の治療は小指の外側にあるツボで首の痛みを緩和し、患部にある大杼(たいじょ)というツボに水鍼を行いました。ゼエゼエと痛みで荒くなっていた呼吸が10分ほどで落ち着き、うっすら笑顔を浮かべて帰っていきました。2週間の間に3回の水鍼治療を行い、3週間後には震えることなく穏やかに眠れています。現在は再発予防のため、首の筋肉の緊張を和らげる漢方薬を続けているところです。
痛みが落ち着いた後も元気に―漢方治療と食事による体作り

あわせて、漢方薬で体の内側からのケアを行うこともあります。痛み止めが体質に合わず吐いてしまう子、繰り返し痛みが出てしまう子の体質改善に、無理なく続けられる選択肢になります。
また、関節や靭帯、椎間板が弱いワンちゃんには、元気な体作りをお手伝いするため、ボーンブロスを中心とした食事のケアについてもご相談を受けています。骨や関節を内側から支えるボーンブロスの話は、こちらの記事で詳しく書いています。
鍼治療、水鍼、漢方、食事。どれか一つではなく、その子の体質や痛みの出方に合わせて組み合わせていく。これが、あじな動物病院の首の痛みへの向き合い方です。
その痛み、あきらめる前に
「首を縮めて震えている」
「いつもと様子が違う日が続いている」
そんな愛犬の小さな変化に気づいたら、その感覚を大切にしてください。機械の検査で「異常なし」と言われても、犬の体が痛みを感じ続けていることがあります。筋肉・椎間板・関節やじん帯の状態は、日々の負担の積み重ねで少しずつ変わっていきます。
原因がよく「わからない」と言われた痛みでも、私がお手伝いできることがあるかもしれません。いつもと違う状態が続くなら、まずは一度、あじな動物病院にご相談ください。
あじな動物病院 獣医師 中西 遵
