老犬と穏やかな幸せを|脳の老化、認知機能低下にできること

「見違えるようにシャキッとしましたね。」
脳の老化で元気がなくなり、くるくると回るようになってしまい来院したわんちゃんが、注射をすると、次に来院する頃にはとても元気に。
脳の神経細胞が老化し認知機能が落ちてしまった犬の中には、脳を形作る細胞にゴミが溜まったり、神経に老廃物が張り付いてるケースや、細胞に栄養が上手く届いていない状態に陥っているものがあります。このような「脳の老化」が起こっている犬では、適切な治療をすると脳が元気になる場合があります。
「老化だから仕方がない」ではなく、「老化だからできることがある」。この記事では、認知機能の低下した犬の脳に何が起こっているのか、そして何をしてあげられるのかを、あじな動物病院よりお届けしたいと思います。
犬の老化|なぜ最近急に変わったように見えるの?

まず、わんちゃんの”老化”について考えてみましょう。若い犬の体は、壊れたものを修理し、足りなくなったものを作り、余分なものを片づける力が十分にあります。ところが年齢を重ねると、
・体を構成する部品やエネルギーを作り出す能力が落ちる
・修理のスピードが遅くなる
・老廃物の片づけが追いつかなくなる
という変化が進んでいきます。
脳を例にとると、
神経細胞を守る抗酸化物質が減り、
神経の膜を保つ材料が不足し、
情報をやりとりするための物質が作られにくくなります。
体全体では、
・炎症が起こりやすくなる(体の中で火事が起こりやすい)
・血流が滞りやすくなる
・栄養が細胞の奥まで届きにくくなる
・糖をエネルギーとして使う効率が落ちる
といった変化が起きています。
これらは急にゼロになるわけではありません。ある一定のところまでは、体がなんとかバランスを保っています。しかし、材料が足りない状態が続いたり、環境の変化や体調不良が重なると、それまで保っていたバランスが「階段を一段落ちる」ように崩れることがあるのです。飼い主さんから見ると、
「昨日までは普通だったのに」
「ここ最近、急におかしくなった」
という印象になることが少なくありません。この“急に”が、治療をする上で大切なポイントです。
老化には、大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは、細胞そのものが壊れ、失われていくタイプ。
もう一つは、細胞はまだ残っているけれど、うまく働けない状態です。
後者の場合、不足している材料を補い、代謝の流れを整えてあげることで、働きが戻る可能性があります。それが、前の章でお話しした「注射でシャキッとした」犬たちです。
老化は止められない。
けれど中には、”手をかけられる”部分があります。
作れなくなっているのか。
届いていないのか。
燃料が足りないのか。
片づけが追いついていないのか。
それを一つずつ見極めていくことが、“老化だからできること”につながっていきます。次の章では“手をかけられる部分”を具体的に、おうちでできる食事や脂質、スープ、栄養という形に落としこんでお話します。
おうちでできる|脳と身体を支える食事の工夫

それでは、実際にあなたがおうちでできることとして、老犬に大切な4つの食事に関するトピックについてご紹介します。
オメガ3脂肪酸(炎症を起こりにくくする、血をサラサラにする油)
年齢を重ねると、体の中では炎症が起こりやすくなります。炎症が続くと、脳や神経だけでなく、血流や内臓の働きにも影響がでます。そこで私がよくおすすめするのが、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)です。
オメガ3は、これから起こる炎症を起こりにくくして、血液をサラサラにする油。
言い換えると、
心臓や血管のクリーンなエンジンオイル
のようなものです。
DHAは脳、EPAは関節の炎症に効果的、そんなイメージです。
すぐに劇的な変化が出るというより、老犬のケアを続ける上で「土台」を整えてくれる栄養だと考えています。原材料が海の幸(フィッシュオイル:鮭やホキ、いわしなどの油、クリルオイル:オキアミ油)なので、臭いで好みが分かれます。
中鎖脂肪酸(MCT)(“燃料が足りない”タイプに)
オメガ3が「炎症を起こりにくくして、血の巡りを整える油」だとしたら、
ここで大切なのが、
脳の新たな“燃料”です。
老犬の中には、脳がブドウ糖をエネルギーとしてうまく利用できず、脳や体が“燃料不足”になっている犬がいます。そこへ代わりの燃料を足してあげると、活力が戻ってくるのです。このときに使うのが、消化しやすくエネルギーになりやすい油――中鎖脂肪酸(MCT)です。研究でも、老犬の認知機能の維持や、脳の過剰な興奮を落ち着かせる方向に働く可能性が示されています。
中鎖脂肪酸が多い食材としては、ココナッツオイルが代表的です(ほかにヤギミルクやギーなどにも含まれます)。ただし、普段の油と性質が少し違うので、お腹がびっくりしないように、まずは少量から始めます。
ボーンブロス(“材料と修理”を助けるスープ)
燃料を加えたら、次は“使いやすい材料”です。
第二章でお話ししたように、老化した犬では「作る力が落ち」「修理が遅くなり」「片づけが追いつかなくなる」ことが起こります。だからこそ、体を作る材料や、修理の材料、片づけに関わる成分を、吸収しやすく、使える形で入れてあげることが大切になります。
ボーンブロス(骨を煮込んだスープ)は、老犬のお腹にやさしい栄養の形。アミノ酸や、コラーゲン由来のゼラチン・ペプチドなどが、スープとして体に染み込みやすい形で含まれています。
たとえば――
・ゼラチンが弱っている腸を保護
・アミノ酸やペプチドが、体の屋台骨になるコラーゲン作りを助ける
・スープの形なので、食欲が落ちた時でも口にしやすい
ボーンブロスは、老犬にとって体を癒やす“魔法のスープ”のような存在です。
修理の材料と潤いにあふれた
「美味しい」その瞬間が、
体を回復させるスイッチを、
そっと押してくれるでしょう。
コリンと卵・レバー(“神経の材料”を食事で支える)
次は“神経を修復する材料”の話です。
認知機能が落ちてしまった犬の中には、脳の情報のやりとりがうまくいかなくなっている犬がいます。
神経の働きには、
情報をやり取りするための材料が必要です。
コリンは、そうした神経の働きに関係する栄養素の一つです。
卵やレバーはコリンを含む食材で、取り入れやすい食事の一手。卵なら、半熟卵や温泉卵、ココナッツオイルを使ったスクランブルエッグなど、わんちゃんが好きな形で試してみましょう。
レバーは、茹でたものやフリーズドライを少量から使うと良いでしょう。
※レバー具体的な量を動画で見たい方へ:
あじな動物病院instagram使い方を載せています ↓
※繰り返しになりますが、レバーは栄養が濃い食材なので、まずはごく少量から試してください。
初めて卵やレバーを与えるときは、どちらも少しずつ試して、お腹の調子や皮膚の様子を見ながら増減します。
ここまで、オメガ3、中鎖脂肪酸、ボーンブロス、コリン(卵・レバー)という4つの食事ケアをお話しました。
次の章では、食事や生活の工夫だけでは支えきれない部分をどう補うか
―「作れなくなった部品」を外から補う方法(注射・点滴)について整理します。
食事だけでは足りないとき、動物病院でできること

ここからは、
食事だけでは追いつかない部分を、
動物病院でどう補えるのか、という話です。
どんなときに治療が必要?
あなたが驚きあわててしまうのは、
「昨日までは普通だったのに、急に様子が変わってしまった。」
その瞬間だと思います。
以下の変化は治療を検討する一つのサインです。
・ぼーっとして反応が薄い時間が増えた
・ぐるぐる回る、落ち着かない
・夜鳴き・夜の徘徊が増えた
・今までできたことの失敗が増えた
こういった変化が出たら、「年だから仕方ない」と決めつけずに早めに獣医師にご相談ください。
治療の見極め
冒頭でお話しした通り、認知機能が落ちてしまった犬の中には、脳の細胞にゴミが溜まったり、老廃物が張り付いたり、栄養が届きにくくなっているタイプがいます。
このような犬では、適切な治療で脳が元気になるケースがあります。これを見極めるために、状態に応じて注射や点滴治療の「反応」で、老化の状態を確認します。
反応が出れば
“立て直せる余地”があるサイン。
反応が弱ければ、別の原因も含めて治療の調整が必要です。
再起動のきっかけ作り
不足しやすい体内物質や神経細胞の材料を用いた治療は、万能薬ではありません。
しかし老犬の中には、「そこを補ってあげるだけで活力が湧いてくる」犬がいます。
・グルタチオンは脳のゴミ掃除に関わる成分です。
・シチコリンは、神経の働きにを支える材料の流れを助ける成分です。
これらの要素を注射・点滴で補うことで、脳を回復に向かわせる”きっかけ”を作れるケースあります。どちらも体内にもともとある物質なので比較的安全性が高いとされますが、体質や状態で合わないこともあるので、診察で判断します。
治療の流れ
1. 回復の余地があるかを治療で確認する
2. 反応が出たら、その状態を食事・生活・サポートで維持する
3. 反応が弱ければ、別の原因も含めて治療の方向を修正する
受診の際、あなたにお願いしたいこと
あなたの観察が、
治療の大きな助けになります。
できれば、
・最近の様子(いつから・どんなふうに)
・夜の様子(夜鳴き・徘徊・睡眠)
・食欲・便・飲水
・できれば短い動画(歩き方、ぐるぐる、呼びかけへの反応)
この情報が必要です。特に動画は大きな助けになります。
気になる変化があれば、一度ご相談ください。
まとめ:老化だからこそ、できることがある
老いる、という現象を止めることはできません。
ただ、老化の中には「手をかけてあげられる部分」があります。
食事で工夫できることがあり、動物病院で不足している物質を「外から補う」という選択肢があります。
「年だから仕方ない」と言われがちな老犬の変化でも、
一緒に観察し、相談しながら、
できることを積み上げてみませんか。
あなたの手で、できることがあります。
よくあるご相談
Q1. 犬の認知症(認知機能不全症候群)で見られる症状は何ですか?
A. よく見られる症状には、
・夜鳴きや徘徊
・同じ場所をぐるぐる回る
・反応が遅くなる
・バックができない
・トイレの失敗が増える
などがあります。
Q2. 病院に行くタイミングは?
A. 急に今までと様子が違うと感じられたら、なるべく早く病院に行くことをおすすめします。特に急に立てない、くるくる回る、首が傾く、目が揺れている、下痢や嘔吐を繰り返すときは要注意です。
Q3. 注射・点滴は何回くらい必要ですか?
A. その子の脳や神経の状態によるので、まずは状態を診て判断します。最初は「反応を見る」目的で1回行い、改善が見られれば必要に応じて繰り返します。回数や間隔は、体調や反応を見ながら調整します。
Q4. 食事だけでよくなりませんか?
A. 食事で支えられるケースもありますが、、老犬が自分自身で「吸収がうまくできない/作るだすことができない」要素については、食事と病院でのサポートを組み合わせる方が安定するケースがあります。
Q5. 受診するときに準備して行くものはありますか?
A. 変化が出た時期、昼と夜、特に睡眠のリズム、食欲・便・飲水の状況、できれば動画(歩き方・ぐるぐる回る・バックする動作、呼びかけたときの反応)があると診察がとてもになります。
