また一緒に食べようね:腎臓病の犬に、いま私たちができる治療と優しいごはんの話

「まずは気持ち悪さをとって食欲が少しでも回復するよう、治療を一緒に始めましょう。」腎臓病と聞くと、不安や戸惑い、そして「何をどうすればいいのか分からない」という気持ちが先に立ってしまうかもしれません。でも、どんな病気のワンちゃんでも、“今してあげられること”は必ずあります。
この記事では、実際に当院で診察した腎不全のワンちゃんの経過をもとに、いま目の前にいる愛犬のためにできることを、ひとつずつご紹介していきます。
最初の一歩:腎臓病と犬の状態を知り、気持ち悪さを取り除く
最初に来院されたとき、ワンちゃんはごはんが食べられず、意識も少しぼんやりしていました。血液検査では、尿素窒素やクレアチニンといった数値が高く、いわゆる「腎不全」の状態でした。ここでまず大切なのは、身体にたまった老廃物(尿毒素)を減らすことです。 当院では、皮下点滴でやさしく体に水分を補い、尿の量を増やすことで、尿毒素をゆっくりと体の外へ流していきます。
この段階での目標はひとつ、「体内の毒素が減って気持ち悪さが薄らぎ、食欲を取り戻すこと」
この小さな一歩から、次の段階へ進みます。

次のステップ:食べる楽しみを、一緒に探そう
治療を始めて2〜3日後、ワンちゃんに少しずつ元気が戻ってきました。表情もはっきりしてごはんを嗅ぐ仕草も見られるようになりました。
この時期には、
・何が食べられそう?
・どんな味・温度・においなら興味を持つ?
などを一緒に話し合います。
決まった食事を押しつけるのではなく、今の体が受け入れてくれる食事を一緒に探していくのです。
中から元気:腸を整えることで、腎臓を助ける
食事が取れるようになったら、次に目指すのは腸内環境を整えること。腸が元気になると、セロトニンを始めとする脳と腸が元気になるホルモンの合成が活発になります。この時期には、
・尿素窒素のもとになる物質を腸内で分解してくれる善玉菌を食事に加える(専用のサプリメントがあります)
・お腹の調子を見ながら、発酵食品や腸をいたわる食材も足してみる体を腸からととのえていくことで、腎臓の負担を和らげていきます。

元気を守る:体に良い油で、腎臓と脳にごほうびを/体調に合わせた一工夫
腎臓はとても血流の多い臓器。だからこそ、十分な血液を届けることが腎臓の健康につながります。
このタイミングで登場するのが、
オメガ3脂肪酸(例:魚油、亜麻仁油など)
これらの脂肪酸は体の中で炎症を起こりにくくし、血液をサラサラにすることで腎臓の血流をよくします。一方、脳や心臓のクリーンなエネルギー源となり、認知機能の低下にも良い影響を与えることがわかっています。
この段階でごはんと一緒に「体に良い油」を取り入れていくことで、体と心を整えていきます。
愛犬の状態に合わせて、こんなサポートを組み合わせることもあります:
🧪 点滴だけでは食欲が戻らないワンちゃんに
→ 漢方薬(六君子湯・補中益気湯など)や食欲増進剤(プロナミド/エルーラ※適用外使用)などを使うことも
🧬 尿検査で尿タンパクや微量アルブミン/クレアチニン比に異常がある
→ テルミサルタンなど、腎臓からの漏出を減らす内服薬で守りを強化
📊 血液検査でリンの数値が高かった場合
→ リン吸着剤を使って、身体への負担を軽減する工夫も
こうした選択肢を組み合わせながら、「ちょっと元気になれそうな道」を一緒に探していきます。
楽しく食べる未来を一緒に作ろう
再度の血液検査で数値が安定してきたら、いよいよ「愛犬の腎臓を守るおいしい食事」を組み立てます。ワンちゃんが食べてくれる食材を中心に、たんぱく質(特にお肉)を控えめにしつつ**老廃物が少ないクリーンな脂質**を上手に取り入れることがポイントです。
おすすめ食材ピックアップ
・ヤギミルク(おなかにも腎臓にもやさしい栄養補給)
・卵(コリンを含む、腎臓と脳にやさしい完全栄養食)
・ココナッツオイル(燃えやすい中鎖脂肪酸でクリーンなエネルギー)
・グラスフェッドバター(犬が喜ぶ美味しさ+共益リノール酸)
・ヨーグルト・納豆、塩抜きしたぬか漬け(おなかの善玉菌を応援)
・かぼちゃ (善玉菌が大好きなケストースが豊富)
ここまでご紹介したように、プロバイオティクス(善玉菌)、体に良い油(オメガ3・中鎖脂肪酸)、そして老廃物の少ないクリーンな油を食事に取り入れて腎臓の負担を減らし、 少しでも食事を長く楽しむ手助けをしていきます。
「また一緒に食べようね」
この記事が、少しでもあなたと愛犬が笑顔でいられるヒントになれば幸いです。

※ワンちゃんの腎臓病のステージによっては、食欲が戻るところまで回復が見られないケースもあります。それでも、できることがあるはずです。一頭一頭の状態に合わせて「いま、その子に必要なこと」を一緒に探すため、まずは診察のご予約をお取りください。
📞 ご予約はお電話でどうぞ:0829-39-6292(診察時間内にご連絡ください)