心臓病で咳が続くワンちゃんに、新しい治療の選択肢 ─ ARNI(アーニ)というお薬の話

💭咳をしているので心臓病が心配
──そんな不安はありませんか?
「最近、咳が増えてきて心配です…」
「お薬は飲んでいるけれど、あまり変化がないような気がして…」
そんなご相談を、犬の咳について調べて来られた飼い主さんからいただくことがあります。年齢を重ねたワンちゃんに多い僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)という心臓の病気では、咳や呼吸の変化が、病気の進行を知らせるサインになることがあります。

💊 治療の選択肢は一つじゃない
──定番のお薬では足りないことも
心臓の弁(扉)の病気は、手術をしない限り進行していく病気です。その子の体に合った治療を続けながら、どれだけ穏やかに過ごせるか──それがとても大切になります。一般的には、ピモベンダンやACE阻害薬などがよく使われますが、「咳がなかなか改善しない」「夜に眠れない」など、こうしたお薬だけではコントロールしきれないことも。そんなときに、新しい選択肢として注目されているのが、“アーニ”というお薬です。

🐶“アーニ”という新しい選択肢
──人でも注目されている心臓のお薬
最近では、人の医療でも注目されている「エンレスト」というお薬が、一部の心臓病の犬にも使われはじめています。正式にはARNI(サクビトリル/バルサルタン)と呼ばれ、「心臓の負担をやわらげる作用」と「心臓を助けるホルモンの働きを保つ作用」──この2つの効果をあわせ持つのが特徴です。すべての子に使えるわけではありませんが、重い症状があるワンちゃんに対して、症状のコントロールを助ける選択肢として導入されつつあります。

📖 実際の症例
ポメラニアンの男の子のケース
実際に、当院でこのお薬を導入したワンちゃんの症例をご紹介します。10歳で心臓病が見つかったポメラニアンの男の子。はじめはピモベンダンで治療していましたが、半年ほどで咳が悪化。夜も落ち着いて眠れなくなってしまいました。
そこでエンレストを導入したところ、1か月後には心拍数が落ち着き、心臓の状態も安定。少し残っていた咳には*スピロノラクトン(抗アルドステロン薬)を追加。(こちらもアーニの相棒として近年注目されているお薬です。)その後は咳も改善し、現在も安定した状態で日々を過ごしています。

あなたの愛犬に合った“やさしい選択肢”を一緒に考えたい
心臓病の治療には、「これが正解!」という一律の答えがあるわけではありません。大切なのは、その子の体調や暮らし方に合わせて、やさしく効くお薬やケアを少しずつ選んでいくことです。心臓のお薬“アーニ”は、そんな選択肢のひとつ。お薬だけでなく、鍼や漢方、食事のサポートなども組み合わせながら、その子にとっての“ちょうどいい”治療を、一緒に探っていきましょう。
「今の治療で本当に大丈夫かな?」
「うちの子にも、他の選択肢があるのかな…?」
そんな想いがある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
広島県廿日市市阿品台3丁目1−1−103
あじな動物病院
☎0829−39−6292
参考文献・出典
- A Pilot Study of Sacubitril/Valsartan in Dogs With Preclinical Myxomatous Mitral Valve Disease
→ Journal of Veterinary Internal Medicine(2020)
https://doi.org/10.1111/jvim.15240 - Short-Term Effects of Sacubitril/Valsartan on Cardiac Parameters in Dogs With Symptomatic MMVD
→ Frontiers in Veterinary Science(2021)
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2021.700230/full - Chronic Administration of Sacubitril/Valsartan Improves Cardiorenal Biomarkers in a Canine Model
→ American Heart Association – Circulation(2017)
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.136.suppl_1.14139 - 【日本語コラム】御殿場インター動物病院
「心臓病治療におけるARNI(エンレスト)の紹介」
https://gotembainter.com/column.php?y=2022&m=08&id=1661936153