1 犬の咳が止まらないとき、動物病院へ連れて行く基準は?
1−1 動物病院へ行くべき症状
咳と合わせて以下の症状があるときは、動物病院で診察を受けましょう。
- 食欲がない
- 熱がある
- ほとんど眠れていない
- 咳こんでぐったりしている
- どんどん咳が悪化する
- 3日以上咳が続いている
- 朝起きたとき、夜中など、安静にしていても突然咳が出る
- 最近疲れやすい、動きたがらない
- 他に病気の治療をしている
- 黒目を見開いて必死に呼吸している
- 舌の色が白い、紫色、異常に赤い
犬が咳をする病気の中には、心臓病のように命に関わるものや、炎症を抑えて咳を止めないと呼吸がうまくできなくなってしまう気管虚脱などがあります。
咳の対処に困ったら、インターネットでいろいろ調べるより、なるべく早くに動物病院へ行きましょう。

1−2 咳をする犬を観察するポイント
動物病院へ行くと、犬が咳をする状況についてたくさんの質問をされます。咳をしている犬を観察するポイント、獣医さんが知りたい情報をまとめてみました。
- いつ咳をするか?
(夜、朝起きたとき、食べた後、水を飲んだ後、運動後、興奮のあとなど) - どんな音の咳をするか?
(アヒルのよう?ぶーぶー?吐くような?) - どこで咳をする?
(外に出た時、家の中、散歩で他の犬と遊ぶとき、リードで首がしまったときなど) - 咳き込んでいる時以外の呼吸の様子は?
(早い、浅い、苦しそう、お腹が動くなど) - 咳の理由として思い当たることは?(タバコの煙、寒さ、空気の乾燥など)
- 日常生活で何か変わったことは?(リフォーム、新しいクッション、敷物、引っ越しなど)
- ワクチンとフィラリアの予防歴は?
- 最近飲んだお薬は?
1−3 家に他にも犬がいるときは
咳の原因がはっきりするまで、咳をしている犬と他の犬を離しましょう。ケンネルカフなどの「感染症」が原因の咳は、うつる可能性があります。
また心臓病などが原因のときは、一緒に遊んだり興奮すると症状が悪化しますので、やはり離して咳をしている犬が落ち着いて過ごせるようにする必要があります。
2 犬はなぜ咳をするの?
2−1 咳の役割
咳はなぜ出るのでしょう?「咳」の役割は、
- のどや呼吸器に入った異物・刺激物を体から追い出す
- のどや呼吸器にたまった分泌物を体の外に出す
- のどや呼吸器にいる病原体を体から追い出す
余計なものを体から追い出して体を守る、大切な反応です。
咳がひどいから止めよう!ではなく、なぜ咳をしているのか?を突き止めて、原因を治療する必要があります。
2−2 咳の原因
咳の原因について、獣医学書から引用してみましょう。
鼻からの分泌物による、咽頭・喉頭の炎症
喉頭:炎症、麻痺、腫瘍、肉芽腫、虚脱
気管:炎症、感染、異物、気管虚脱、狭窄、腫瘍
下部気道疾患(気管支、肺)
炎症:慢性気管支炎、好酸球性気管支肺炎
感染症
細菌:ボルデテラを始めとする細菌
ウイルス:アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、犬インフルエンザウイルス、ジステンパーウイルス、呼吸器コロナウイルス
寄生虫:犬肺虫、肺吸虫、糸状虫(フィラリア)、毛細線虫
真菌:ニューモシスチス(酵母様真菌)、その他真菌(ブラストミセス症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、アスペルギルス症)
腫瘍:原発性、転移性、リンパ節転移からの圧迫
化学薬剤、外傷:吸入、溺水、有毒ガス、異物、外傷、出血、首輪で首が締まる
原因不明の慢性疾患:間質性肺線維症
その他の疾患
循環器疾患:肺水腫、左心房拡大、心基底部の腫瘍、血栓症
胃食道逆流症
隣接臓器による気道構造の圧迫:心臓拡大(心タンポナーデなど)、巨大食道、肺門リンパ節の腫脹
非心原性肺水腫
タバコの煙の吸引
Blackwell’s Five-minut Veterinary Consult: CANINE AND FELINE fifth Edition, Larry P.Tilley and Francis W.K. Smith, Jr Wiley-Blackwell出版より引用
咳の原因を特定するには、一度の診察や検査では判断がつかない難しいケースがたくさんあります。咳が悪化する前になるべく早く動物病院へ犬を連れて行きましょう。
ここからは動物病院で一般的なケースについて、原因を解説します。
2-2-1 子犬が咳をするときは、ケンネルコフに気をつける

家に来たばかりの子犬が咳を繰り返しているときに多い原因が、ケンネルコフという病気です。
ウイルスではアデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、犬インフルエンザウイルス、ボルデテラ菌をはじめとるする細菌などが、ケンネルコフに関与していると言われています。
生後6週から6ヶ月までの子犬は、症状が悪化しやすく咳が長引いてしまうので特に注意が必要な病気です。なるべく早く治療してもらいましょう。
2-2-2 小型犬に多い気管虚脱
「アヒルが鳴く」ようなガーッガーッという咳の原因で気をつけたいのが「気管虚脱」です。プードル、チワワ、ヨークシャーテリア、ポメラニアンなどの小型犬に多く見られます。
吸い込んだ空気を肺に送りこむ管を「気管」と呼びます。気管を支えている軟骨が生まれつき弱く、激しく息をしたときに気管がつぶれてしまい、ちょっとした刺激で咳き込んでしまう病気です。
気管虚脱の診断には
・息を吸ったとき
・息を吐いたとき
両方のレントゲン写真を撮影し、首〜胸の中のにかけて気管がつぶれて狭くなっていないかを確認します。
過剰な興奮、肥満・呼吸器の感染症や炎症、首輪などによる締め付け、麻酔時の気管挿管などは、気管虚脱を悪化させる要因となります。
気管虚脱が見つかった場合は、早いうちに今後のケアを獣医師とよく相談してください。
2-2-3 命に関わる心臓病の咳
まずは気管と心臓の位置関係について知ってください(レントゲン写真)

犬の胸の中では、気管という空気を肺に送る管のすぐ下に心臓があります。

心臓の病気で、心臓が大きくなってしまうと気管が上に押し上げられて圧迫されます。すると夜中や朝、ちょっと興奮しただけでも気管が押されて咳き込んでしまうという状態になります。
気管を押してしまうほど心臓が大きくなっている=心臓病がかなり進行しているということです。
心臓病が原因での心臓発作や、肺に血液の中の水分があふれてしまう「肺水腫」という状態になると、命に関わります。
犬の咳の原因に心臓が関係しているかどうか?という判断は、心臓病の多い「小型犬」ではとても重要です。
「寝ていても咳が出る・少し動くと咳が出る・最近急に疲れやすくなった」こんな症状がみられる場合は、早急に動物病院を受診して、心臓が悪くないか確認してもらいましょう。
2-2-4 動物病院で咳の原因がハッキリしないとき
「2−2 咳の原因のリスト」にはのっていない、犬の咳があります。西洋医学の病気の分類に当てはまらないケースです。
こういったケースでは、咳を鎮めるために全身のバランスをとるためにはどうしたら良いか?という東洋医学の視点から、咳の治療を組み立てる必要があります。
検査をしたけれど咳の原因がわからない、処方された薬がどれも効かないときは、東洋医学の得意な獣医師に相談してみましょう。
大学病院や、呼吸器を専門にしている獣医師が診断しないと、原因のハッキリしない難しい病気もあります。呼吸器を専門にする動物病院で、セカンドオピニオンを受けるのも選択の一つです。
3 軽い咳、自宅でできる対処
3−1 スチーマーで加湿
空気が乾燥してのどの刺激になっているときに効果のある対処です。
・秋になり急に気温が下がる時期
・日が長くなりはじめる2月末から3月にかけて
・冬の暖房がエアコン主体
・夏のキンキンにクーラーが効いた部屋
季節の変わり目や、乾燥した空気の部屋にいるとのどが乾燥して刺激に弱くなります。
外へ出ると咳き込む、朝起きるとのどが乾燥して咳き込む、そんなときは、部屋をしっかり加湿してあげましょう。
3−2 お風呂場をシャワーでムンムンにして「蒸気浴」

注:のどを潤すだけでいいので、お湯を浴びる必要はありません。
空気の乾燥した風が強い日に、外で遊んでいたら咳が止まらなくなってしまった。
エアコンが効いた乾燥した部屋で寝ていたら、起きがけに咳が止まらない。
そんなときは、お風呂場に熱めのシャワーを出して蒸気を充満させ、5〜10分ほど蒸気を吸わせましょう。エッセンシャルオイルをしみこませたガーゼやティッシュを置くと、効果が高まります。
注:心臓が悪い犬には絶対に行わないでください。体温の調節がうまくいかず酸素も足りなくなり、状態が悪化します。
3−3 咳を鎮めるハーブのエッセンシャルオイル
西洋ハーブのエッセンシャルオイルの中には、咳を鎮める効果を持つものがあります。
ユーカリ:殺菌作用、呼吸を楽にする
ラベンダー:殺菌作用、消炎作用
ティーツリー:殺菌作用、抗ウイルス作用
カモミール:鎮静作用、興奮を鎮めて炎症を抑える
ペパーミント:消炎作用、熱を取って呼吸を楽にする
ティッシュやガーゼにしみこませて、咳をしているワンちゃんのそばにそっと置いておきます。
お風呂で蒸気浴をしているときに、浴室においておくと相乗効果が期待できます。
3−4 軽い咳にはハチミツとレモン

ハチミツには、「のどや呼吸器を潤して咳を鎮める」という性質があります。犬が咳をしているときに、舐めさせてあげましょう。
ハチミツの効果をより高めるのが「レモン」。のどを潤す手伝いをしながら、炎症をやわらげ、ハチミツの咳を鎮める効果を補助してくれます。
・カップ1/2杯のぬるま湯
・小さじ1杯のレモン
・大さじ2杯のハチミツ
これらをまぜて、スポイトや注射器で犬に飲ませます。
3−5 咳を鎮めるツボ 「定喘」
原因を気にせず使える、咳を鎮めるツボがあります。
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犬の肩甲骨頭側。首の付け根の骨と骨の間をはさむように左右2箇所。20秒程度、じわっとツボを押し続けてください。
注:あくまで「対症治療」、一時的に咳の発作を落ち着かせるだけで原因の病気を治療する効果はありません。
咳が落ち着いた所でなるべく早く動物病院へ行きましょう。
4 犬の咳を予防するには?
4-1 首輪をやめる
ぐいぐい引っ張るタイプの犬に首輪をしていると、引っ張る度に首が圧迫され、気管がつぶれてしまいます。人間と違って犬の気管の一部は、気管筋という筋肉でできており、つぶれやすくなっているのです。
気管がつぶれるだけでなく、首を通っている神経・筋肉・関節に負担をかけることも多いため、引っ張りが強い犬の咳の予防には、首輪ではなく胴輪をオススメします。

4−2 のどの潤いを保つ
のどを潤すと聞くと、「加湿」をするば良いかな?と思いますよね。もっと大切なのは、潤いを保つ元気な食事です。
ゴマ、卵、ウズラの卵、豚肉、豚足、馬肉、チーズやヨーグルト、小松菜、ニンジン、ほうれん草、ダイコン、ハチミツなどが体の潤い保ってくれる食材の一例です。
必須脂肪酸の豊富なフィッシュオイル(サーモンオイルなど)や、αまたはγリノレン酸を豊富に含む、ココナッツ、エゴマ、亜麻仁、オリーブ、クルミなどの油も、積極的に食事に加えていきましょう。
フィッシュオイル:5kgの犬でDHAとEPAを合わせて1日100mg〜300mg
ココナッツオイルなど:1日小さじ1杯を目安
1日小さじ1/2杯程度のハチミツと一緒にココナッツオイルなどを摂取するとより効果的です。咳をしている間はどちらも2倍の量を投与します。
逆にドライフードや動物性の油が多すぎると、のどや体が乾燥しやすくなりますので注意しましょう。
4−3 太らせない
犬が肥満になると、
・首周りの脂肪がのどをせまくする
・お腹と胸の脂肪が1回に吸える空気を少なくする
・血液が悪玉コレステロールでドロドロになり心臓の負担が増える
呼吸器も心臓も負担が増え、気管虚脱や心臓病がある犬は症状が更に悪化しやすくなります。
犬は舌から水分を蒸発させて体温を下げるため、暑いと必死にハアハアゼエゼエと呼吸をします。肥満の犬は熱が体にこもってしまい、ハアハアゼエゼエがなかなかおさまりません。のどへの負担が大きくなり、咳が悪化しやすくなるので注意しましょう。
4−4 フィラリア予防をキチンとする
フィラリアとは、犬が蚊に刺されたときに体に入ってくる寄生虫です。心臓で虫が成長するため、心臓や肺に行く血管をボロボロにし、犬の命を奪います。
犬の心臓を狙う寄生虫「フィラリア」は予防できる病気です。錠剤、オヤツタイプ、首の後ろに塗るスポットオン、1年効くお注射。
フィラリアに感染してしまい、咳が出るのは末期状態です。予防できる危険な病気は、獣医さんに相談してしっかり予防していきましょう。
4−5 むやみに不特定多数の犬が集まる場所へ行かない
ドッグショーやドッグラン、可愛い・カッコいい犬が集まるイベントは、犬が好きな人には楽しいものです。しかし人混みや環境の変化をストレスに感じ、体調を崩す犬が多いのもまた事実です。
咳の原因になるウイルスや菌だけでなく、下痢を起こす菌や寄生虫など、感染の機会がどうしても増えてしまいます。
高齢の犬やなんらかの病気を持っている犬、ストレスに弱いワンちゃんは、むやみに犬が集まる場所へ行かない方が良いでしょう。
4−6 シャンプーの後はしっかり乾かす
・シャンプーのあとが生乾きで、風邪をひく
・慣れないお風呂に疲れて風邪をひく
シャンプーやトリミングの数日後に熱を出し、咳をコンコン(コンコンというよりは、グホッ、グハッ、カーッ、オェェツという感じですが)して動物病院に来るケースが意外に多いです。寒い時期はお風呂場をしっかり温めてからパッと洗ってしっかり乾かしましょう。
冬は体調を崩しやすく、シャンプー後の皮膚がパリパリになりやすいので、夏場より洗う頻度を少なくしましょう。

4−7 歯磨き・歯石の予防をしっかりとする
歯磨きと咳?と思わるれる方が多いと思います。歯石がついて歯周病を起こしている犬の口の中は、体にとって悪い菌の巣窟です。
真っ赤に腫れて弱った歯茎から、体の中に入り込んで菌が悪事を働きます。歯茎で菌と戦う毎日が続きますので、体もだんだんと消耗していきます。
咳を起こす呼吸器の病気や心臓病の引き金になるだけではなく、体の至る所で菌による問題が起こります。
「歯石・歯周病は万病のもと」という言葉は、犬の歯科を専門にする獣医さんから飼い主の方みなさんへの大切なメッセージです。ぜひ愛犬の口の中をキレイに保ちましょう。
最後に
今回は犬の咳についてお伝えしました。
犬の咳は、原因によって治療も対処も全く違ってきます。犬の咳がなかなか止まらないときは、のどや呼吸器が原因の咳なのか?心臓病や他に病気が原因ではないか?を動物病院でしっかりチェックしてもらいましょう。
乾燥や刺激が原因で咳が止まらないときは、
・加湿や蒸気浴
・体に潤いを与える食材
・のどや呼吸器の炎症をやわらげ、咳を鎮めるハーブのエッセンシャルオイル
・ハチミツとレモン
これらをうまく使って応急の対処をしてください。
治療を受けて咳が落ち着いたら、今度は日頃から犬ののどに負担をかけないよう、「4,咳の予防」をおさらいして、元気に楽しく犬と過ごしましょう。
はじめまして(=^ェ^=)
9才のプードルを飼っています。
1年前シャンプーの際咳き込み、それから色々な薬、検査をしてきましたが一向に治りません。
ネプライザーを使い始め2日目です。
それが、フードを食べれば治る→あげる→フードを欲しがる→咳が始まる→フード→治るの繰り返しなんです。仮病?と思う事もありますが、やはり心配で…。どぉしたらいいのか、本当に毎日悩み考えていました。
先生のブログを拝見して色々と試してみようと思います。
先生の意見も聞きたいので、よろしければメールをください。
よろしくお願いします。
フードは小さい頃から夜の7時が終了で、7時を過ぎたら全く咳き込みません。
6歳のトイプードルです。しかし、この年齢は不明なんです。保護犬で分からないのが実際です。歯がなく、フードは缶詰めがドライをふやかしてやってます。2月に譲渡してもらってから、1ヶ月くらいから咳が気になりだしました。気管支が弱いからだと色々薬を試しましたが、はっきりしません。そのうち胃腸炎を起こして点滴やら薬やらでその時調べたら気管虚脱気味だから咳が出るんだと言われました。また違う薬が始まって飲んでる最中ですが、このまま薬漬けでいいのかと思い投稿しました。先生なら他のいい方法を見つけてくださるんではないかと信じたいです。よろしくお願いします。
咳の原因は犬一匹一匹違うものです。コメントや問い合わせいただくのは大変ありがたいことなのですが、実際に犬を拝見しないことには的確なアドバイスを差し上げることができません。皆様ご了承ください。