犬が下痢をしたときにあわてない、獣医さんからのアドバイス
愛犬が突然おなかを壊してしまったとき、まず何をしたら良いでしょう?今回は犬の下痢の対処や動物病院へ連れて行く基準、下痢の原因や予防についてあじな動物病院からお伝えします。
1 犬が下痢をしたら最初にすること
エルがお腹を壊したときは、どんな様子だったかなあ?
父ちゃんが慌ててエルを抱えて、床を拭こうとしたらエルまたウンチでちゃってシッポについて大変だった。
僕ら毛が生えてるから、ウンチつかないようにしないとね。
1-1 おしりの周りの毛を短くカット
自分がおなかを壊したところを想像してください。何度もトイレに行きますよね?犬もしばらくは繰り返し排泄をします。おしりをキレイにしてもすぐにに汚れてしまいますので、おしりが汚れにくいように予防線を張りましょう。
まずは犬がまたウンチをしても大丈夫な場所へ移動します。玄関先、庭、お風呂、ペットシーツを敷き詰めた場所広めのケージ(狭いとウンチを踏んでしまいます)。
毛の長い犬種は、ウンチがついてしまった毛を目安に、おしりの穴の周りの毛を短くカットしておくと、次のウンチの被害が少なくできます。慌てずにウンチがついた毛をカットして、それから落ち着いておしりや足をキレイにしましょう
1-2 便をとっておく
下痢の原因はさまざまです。原因を知るための一番の早道は「獣医さんで検便してもらう」こと。慌てて全て片付けてしまいがちですが、検査をしてもらえるように便を一部とっておくと、動物病院に行った時にスムーズに検便してもらえます。アルミホイルでもラップでも構わないので、くるんで乾かないうちに検便してもらいましょう。
1-3 おなかが落ち着くまではまめに外へ連れ出してあげる
おなかを壊してしまうと、なかなかトイレまで我慢できません。まめに外やトレイに連れて行き排泄させてあげると被害が少なくて済みます。
2 犬が下痢をしたときに家でできること
犬のおなかが落ち着いたら、次は早く元気になってほしいよね。ただ、すぐにゴハンを食べるとどうなると思う?
またおなかがギュルギュルなりそう・・・。
ボンが下痢をしたあとの対応をお伝えするね。
2-1 食事を抜いて胃腸をまず休める
犬が下痢をしているときに、すぐに食事をあげても消化できずにまた下痢をしてしまいます。食事を1日休んで、胃腸が自分の回復に専念できるようにしてあげましょう。
2-2 脱水の予防
下痢で具合が悪くなるのは、おなかの痛みと脱水です。吐き気がないなら水をいつでも飲めるようにすることが大切です。最近では飲む点滴も売られています。
においを嫌がるときは100ccのぬるま湯にお塩をひとつまみとかしたり、人が飲む濃さの半分程度の具のないお味噌汁も、脱水の予防には効果的です。大豆にアレルギーがないかは注意してください。(ちなみに点滴の液の濃さは100ccの水に0.9gの食塩です。)
嫌がるようならば普通の水で構いません。キレイで美味しい水を準備してあげましょう。
2-3 食事をゆっくり再開する
下痢の回数が減り、水を飲んでも吐く様子がなければゆっくり食事を与えます。いきなりドッグフードには戻さず、煮込んだ少量のささみや、白米のおかゆ、あるいはジャガイモやカボチャのおかゆをスタートします。(近年は骨を煮込んだスープ、ボーンブロスが腸の回復には有効だと考えらています。)
犬が食事を欲しがらない、胃腸がまだ回復していないときは無理に食べさせる必要はありません。2−3日はスープや粥でお腹をならし、ゆっくりといつもの食事に戻していきます。
(参考文献:Four Paws, Five Directions: A Guide to Chinese Medicine for Cats and Dogs, 著Cheryl Schwartz , 出版社: Celestial Arts )
2-4 ビオフェルミンをあげても良いですか?
動物病院に来る前に、下痢をした犬にビオフェルミンをあげている方はとても多いです。ビオフェルミンで落ち着く程度の下痢ならば、特に与えても問題になることはありません。体重5kgの小型犬で大人の量の1/4〜1/10を目安に与えてください。1日で1/2から1錠程度になると思います。ビオフェルミンで改善しない下痢ならば、すぐに動物病院へ行きましょう。
2-5 下痢止めを飲ませて良い?
菌・ウイルス・寄生虫など、病原体の「感染」による下痢のときは、下痢を止めてはいけません。薬で下痢を止めると、腸の中で病原体がさらに増えて病気を悪化させます。拾い食いや薬物、毒素による下痢も同じです。悪いものは出さないと良くなりません。下痢の原因がわからないときは、下痢止めを飲ませることはおすすめしません。
3 動物病院に行く基準
犬が下痢をしたとき、どんな状態なら動物病院に行ったら良いのかなあ?
そこは父ちゃんに聞くのが一番だね。
動物病院を受診した方が良い下痢の症状をお伝えします。
- 下痢以外の症状がある(吐き気、発熱、痛み、ぐったりしている)
- 子犬と老犬、病気を持っている犬が下痢をしたとき
- 3日以上下痢が続く
- 水下痢、血のような下痢
- 緑黒いタールのような下痢、チョコレート色の臭いの強い下痢
- だんだん具合が悪くなっていく
以上が動物病院になるべく早く行った方が良い下痢の症状です。下痢で体力を消耗すると病気が更に悪化してしまいます。判断に迷ったら動物病院に相談するのが間違いありません。
飼ったばかりの子犬がパルボウイルスにより血便・嘔吐をしているときは死んでしまう危険があります。早急に、すぐに、動物病院へ行ってください。
4 犬の下痢の原因は?
犬の下痢の原因を調べるのは何でだと思う?
父ちゃんが知りたいだけじゃないの?
原因を治療すれば早く治るからじゃないかなあ?
さすがお兄ちゃんだねボンちゃん。その他にも、人や他の犬にうつる下痢の菌がいるからそれを調べたり、下痢の原因を知ることで次の下痢を予防する目的もあるんだよ。
犬は散歩中に他の犬の便を嗅いだりなめたりするから、人と違って菌の感染が原因になりやすいんだよね。
それでは下痢の原因を見ていこうか。
4-1 細菌
・クロストリジウム(clostridiumu):芽胞菌 元気な犬でも持っていることの多い悪玉菌です。合わない食事、預けたりなどのストレス、寒さでおなかを冷やしたなど、犬の免疫力が低下するとおなかの中で増えて悪さをします。
・カンピロバクター(campylobacter):ラセン菌 菌を持っているけれど症状が出ていない犬の便からの感染、じめじめした環境を好む菌で、取扱の不十分な生の肉から感染することもあります。ドッグラン、ドッグショー、オフ会、犬の集まる公園などは要注意です。血便・嘔吐など、激しい症状がでることがあります。
・サルモネラ菌(salmonella) : 生肉を食べるレースドッグ(イタリアングレーハウンドなど)に多いなどと言われていますが、実のところ感染経路がよくわかっていない菌です。爬虫類が持っていることの多い菌ですが、サルモネラ菌による下痢をした犬の家に、いつも爬虫類が飼われているわけではなく、散歩中の拾い食いや下痢をした犬の便からの感染と予測されます。
4-2 ウイルス
下痢を起こすウイルスで一番怖い病気が「パルボウイルス感染症」です。子犬が吐いて、粘液と血液のまじる便をしたときは、パルボウイルスにかかっていないか動物病院をすぐにでも受診しましょう。死亡率の高いとても厄介な病気です。
4-3 寄生虫
子犬の頃から下痢を繰り返すとき、見逃されていることが多いのが「寄生虫」です。特にジアルジアやトリコモナス、コクシジウムなど、顕微鏡でしか見えないサイズの「原虫」と呼ばれる仲間が、なかなか発見されずに下痢の原因となっています。検便で発見できない場合は、ELISA法やPCR法など、特殊な検査によって原虫がいないか検査する必要があります。
4-4 食物不耐性、食物過敏症
「体に合わないものを食べた」と考えてください。食べたもへの過敏症が強くでると、腸全体が腫れてしまい、ステロイド剤などの強力な消炎剤を使わないと炎症がおさまらないケースがあり注意が必要です。
4-5 おなかを冷やしてしまった
年をとった高齢犬、肝臓や腎臓、心臓が悪い犬、ホルモンの病気がある犬などでは、「冷え」に体が対応できずにおなかをこわすケースがあります。
4-6 過度のストレス
突然の激しい雷、花火、慣れないペットホテルなど、過剰なストレスで下痢を起こすことがあります。下痢の治療だけでなく、ストレスで崩れた気持ちのバランスを取ることがおなかの回復を助けます。
4-7 なかなか治らない下痢
一般的な下痢の治療をしても治らない場合、リンパ管拡張性、タンパク喪失性腸症、リンパ球プラズマ球性腸炎などに代表されるIBD(Imflammatory bowel disease)、食事反応性腸症、小腸内細菌過剰増殖症、リンパ肉腫をはじめとする悪性腫瘍など、診断と治療が難しい病気の可能性があります。「消化器」の病気を専門にする獣医師の診察が必要です。
5 下痢を予防するには?
犬がなるべくおなかを壊さないためにはどうしたら良いかなあ?
下痢の原因を知って予防することと、菌に負けない、悪いものを食べてもすぐに出してしまえる元気な胃腸を作ることだね。
お兄ちゃんは食べるのが好きだから拾い食いに注意だね。
落ちてたおしんこ食べたらひどい目にあったね・・・。
5-1 散歩中のモグモグ・ペロペロに注意する
犬が突然下痢をしてしまったとき、飼い主さんに心当たりのないケースが多いのはなぜでしょう?
それは、散歩中の草むらの中、あるいは夜の散歩の暗闇の中、見えないところに落ちている犬の便・草についている便・尿を飼主さんが知らないうちに舐めたり、拾い食いをしているからです。あるいは、季節の変わり目の温度や湿度の変化に体がついていけない、トリミングやペットホテルの慣れない環境に疲れて免疫力が落ちてしまい、おなかの悪玉菌が暴れているケースもあります。
下痢を予防するためにはできることは、散歩中に犬が何をしているか目を離さないことがとても大切です。
犬は他の犬の排泄物があるとクンクンと臭いを嗅ぎ、そのニオイに興味を持つとペロペロなめる習性があります。口の中に鋤鼻器(じょびき)呼ばれる臭いを感じる場所があるからです。おなかを壊した犬の排泄物も、ついつい嗅いだあとになめてしまい下痢を起こす菌に感染します。
拾い食いをする犬は下痢の危険だけでなく、
- 桃や梅干しの種を腸に詰まらせてしまう
- 焼き鳥の串を丸のみしてしまう
- 薬物の入れられたソーセージやお団子を食べて薬物中毒になる
など、さまざまな危険があるので、特に注意が必要です。
5-2 冷蔵庫からだしたキンキンに冷えた食べ物、特に牛乳に注意する
牛乳でおなかがゆるくなる原因は、牛乳に含まれる乳糖が合わなかったり、牛乳の中のタンパク質、ガゼインが合わないケースなどがあります。乳糖不耐性や食物アレルギーなどですが、人でも犬でも、キンキンに冷えた牛乳をごくごく飲むとおなかを冷やして下痢をしてしまいます。
牛乳をあげるなら、室温に戻してあげましょう。
ちなみに高温殺菌された牛乳より、ちょっと高めの低温殺菌で風味の残ったおいしい牛乳の方がおなかを壊しにくいです。
5-3 悪い菌、悪い食べ物に負けない腸を作る
簡単に菌やストレスに負けない、元気なおなかを作るにはどうしたら良いのでしょう?
- 善玉菌を増やす
- 消化の良い食事をとって胃腸の負担を減らす
この二点を大切にすると効果的です。
善玉菌を増やす
腸の中の善玉菌を増やし、下痢を起こす悪玉菌に負けないポイントは、
- 善玉菌のエサになる炭水化物・食物繊維をほどよく取る
- 善玉菌を直接送り込む
犬は野菜や果物を食べますが、食物線維は腸の善玉菌のゴハンになります。食物繊維を腸の善玉菌が分解すると、「短鎖脂肪酸」という物質ができ、悪玉菌が増えにくくなります。逆に善玉菌は元気に、増えやすい環境になるのです。食物繊維にはウンチの水分をほどよい量に保つ効果もあります。
- リンゴ
- キャベツ
- サツマイモやカボチャ
- しっかり煮た玄米
これらが犬に良い食物繊維を含んだ食材です。ニンジンのスティック、ブロッコリーやキャベツの芯をあげると、噛むオヤツになり効果的です。
乳酸菌や納豆菌、善玉菌の力も借りるためにヨーグルトや納豆をあげましょう(小さじ1~大さじ1杯程度)。乳酸菌と納豆菌を一緒にとると、お互いに協力しあっておなかで元気に増えることがわかっています。ヨーグルトや納豆にアレルギーのある犬は、犬用のプロバイオティクス=犬のお腹の善玉菌が売られていますので、ショップや動物病院に相談してみましょう。ビオフェルミンやミヤリサン、ビオスリーなども利用できます。
消化の良い食事を与える
消化しやすい食事をとると、
- おなかの負担が減る
- 酵素が節約できる
という利点があります。
高齢になると消化する力が落ちてくるので、消化しやすい煮込んだ食事や、消化酵素が豊富なダイコン・カブなどの食材、胃腸を保護するヌルヌルねばねばの海藻や納豆などをうまく使って、胃腸の負担を減らしましょう。
空腹時に吐きやすい犬は、ドライフードが胃の中でふくれあがり、胃に負担をかけている可能性があります。あらかじめしっかりふやかしたフードを与えることで、胃の負担を減らすことができます。
ドッグフードの動物油で胸焼けを起こす犬がいます。ココナッツオイル、亜麻仁油、オリーブ油など、質の良い油を使った食事がありますので、胃腸の負担にならない油を使ったゴハンを選ぶことも大切です。
どんな食事が愛犬に合っているか悩むときは、犬の食事について知識の豊富な獣医師に相談してみましょう。あじな動物病院でも、犬のお食事相談を受けつけています。
6 まとめ
犬が下痢をしてしまうとあまりの大惨事に慌ててしまうと思いますが、被害を最小限に食い止めるために気持ちを落ち着けて対処しましょう。
- おしりの毛をカットして
- まめにトイレに連れ出す
- 早めに動物病院へ行って原因をしっかり治療する
判断に迷ったら、まずは食事をお休みして水分補給をしっかりしましょう。
下痢をしにくい腸内環境を作るためには、
- 善玉菌のエサになる食物繊維、サツマイモやカボチャ、キャベツやリンゴをあげる
- 善玉菌を積極的にあげる(ヨーグルトや納豆、プロバイオティクス)
以上が犬が下痢をしたときに気をつけたいポイントです。
犬が下痢を繰り返す、治療をしてもなかなか良くならないときにはあじな動物病院にご相談を。
ご予約はこちらから
広島県廿日市市阿品台3丁目1−1−103
あじな動物病院
TEL 0829-39-6292
参考文献:
Four Paws, Five Directions: A Guide to Chinese Medicine for Cats and Dogs, 著Cheryl Schwartz , 出版社: Celestial Arts
Backwell’s Five-minute veterinary consult: Canine And Feline ,Larry P. Tilley , Francis W.K. Smith Jr.著 Wiley-Blackwell出版